2010年10月5日火曜日

緒言

ハーバード大学のマイケル・サンデル教授の講義、「正義論」が話題になっている。私は流行に乗り遅れてしまい、iTunesUで後追いしながら見ているところだが、違和感を感じるところも少なくない。

いや、サンデル先生の解説は適切だし、プレゼンテーションはうまいし、教室内をうまくコントロールするすべは驚嘆すべきものがある。しかし、結局は「お勉強」に過ぎないという点で、不満を持ってしまう部分があるのだ。ハーバード大学といえば、世界一とも俗に言われるほどの大学である。そのハーバードでの授業なのにも関わらず、レベル的には日本の国立大学の授業とそんなに違いはないと感じてしまうのは私だけではないだろう。

もちろん、公開されている部分は編集を経ているだろうから、実際のハーバード大学での講義はもっと高度なことを教えているのかもしれない。しかし、現在日本で流行っているのは、ハーバード大学での講義そのものではなくて、それをまとめたビデオ(NHKが放送した「ハーバード白熱教室」)と、サンデル先生の解説本(『これからの「正義」の話をしよう』)である。これらは、大変わかりやすく、一見取っつきにくい政治哲学を身近に感じてもらうという意味で大変すばらしい内容だが、私にとっては、本来の哲学が持つ奥深い思想が、あまりに単純化されすぎているという部分も感じられる。

そして、もう一つの不満は、サンデル先生の講義では、人間本性への言及が少なすぎるのではないかというものだ。最近のアカデミアの潮流としては、倫理は人間が文化的に作り出した人工物ではなくて、人間が本能的に備えているものだという考え方が主流になってきていると思う。その意味で、『人間本性論(人性論)』を記したデイヴィッド・ヒュームは時代を先取りしていたと言えよう。私にとっては、この認識が非常に重要であり、この認識の上でなければ、説得的な政治哲学を構築することは困難であると考えている。

そこで、倫理というものを、人間が本能的に備えているものだという立場を取りつつ、あり得べき「正義」の形を少しでも見えるものにしたいという思いでこのブログを開設することにした。

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